大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

佐賀地方裁判所 平成元年(行ウ)5号 判決

佐賀県藤津郡嬉野町大字下宿乙三八一番地の三

原告

有限会社港南

右代表者代表取締役

寺田美津子

右訴訟代理人弁護士

鴨川裕司

右訴訟復代理人弁護士

平田泰士郎

佐賀県武雄市武雄町大字武雄五六五八番地の一

被告

武雄税務署長 小林一久

右指定代理人

糸山隆

坂井正生

伊香賀静雄

佐藤實

井芹知寛

木原純夫

樋口貞文

荒津惠次

白濱孝英

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

原告が昭和六二年六月三〇日付でした原告の昭和五九年四月一日から同六〇年三月三一日までの事業年度の法人税についての更正及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  本件更正処分等の経緯

原告は、遊技場業(パチンコ店)を含む有限会社であるが、昭和五九年四月一日から同六〇年三月三一日までの事業年度(以下、「係争年度」という。)の法人税確定申告書に、欠損金額を二七七万三七五〇円、還付金の額に相当する税額を二六九万三四一一円(内訳、所得税額等の還付金額五四万八四一一円、中間納付額の還付金額二一四万五〇〇〇円)と記載して、同年五月二〇日被告に提出したが、その後、同修正申告書に、所得金額を六八万七二五〇円、還付金の額に相当する税額を二四八万〇四四一円(内訳、所得税額等の還付金額三三万五四四一円、中間納付額の還付金額二一四万五〇〇〇円)と記載して、同六二年五月二七日被告に提出した。

被告は、右修正申告に対し、同年五月二九日付で、過少申告加算税の額を一万〇五〇〇円とする賦課決定をし、さらに、同年六月三〇日付で、所得金額を一六七一万四一八六円、納付すべき税額を五七〇万四七〇〇円とする更正及び過少申告加算税の額を五八万九五〇〇円とする賦課決定(以下、「本件更正処分等」という。)をした。

原告は、これを不服として同年七月一四日異議申立てをし、被告は同年一〇月一四日付でこれを棄却したので、さらに同年一〇月二四日国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、同審判所長は平成元年五月三一日付でこれを棄却する旨の裁決をした。

2  係争年度における貸付金債権放棄に至る経緯等

(一) パチンコ店「コーナン」の経営状況等

訴外澤田良子(以下、「澤田」という。)は、昭和五八年二月一七日付で佐賀県公安委員会から風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律に基づくパチンコ店の営業許可を受け、同年二月二五日、佐賀県鹿島市大字森九九五番地にパチンコ店「コーナン」(以下、「コーナン」という。)を開業し、原告から、建物、設備、機械、器具等パチンコ店経営に必要な設備を借り入れるとともに、資金の提供や経営の指導を受けながら、同年四月一七日までの間経営したが、二四五三万九一六一円の損失金額を生じ経営不振を理由に同日廃業し、同月一八日訴外西九商事有限会社(同日設立、設立後の代表取締役は澤田、以下、「西九商事」という。)に経営を譲渡した。

その際、原告、澤田及び西九商事の合意のもとに、同月一七日現在のコーナンの資産及び負債は、負債超過分を解消させたうえ西九商事に承継させることとし、そのため、同日現在の負債合計一億一九一〇万七〇四七円(原告に対する借入金一億〇五七七万九〇六〇円を含む。)から資産合計一億〇二八六万七八八六円を控除した残額金一六二三万九一六一円については、原告の澤田に対する貸付金(以下、「本件貸付金」という。)とする会計処理がなされた(すなわち、右の原告に対する借入金のうち八九五三万九八九九円を西九商事が引き受けることとなる。)。

その後、西九商事は同年六月七日パチンコ店の営業許可を受けたが、同年一〇月三一日廃業し、同年一一月一日原告にコーナンの経営を譲渡した。

右のとおり、コーナンの経営主体の推移に伴い、同五八年二月二五日から同年四月一七日までの所得については澤田が所得税の、同年四月一八日から同年一〇月三一日までのそれについては西九商事が法人税の、同年一一月一日以降のそれについては原告が法人税の各確定申告をしている。

なお、原告の事実上のオーナーは訴外澤田清吉であるが(澤田がコーナンを経営していた当時は、澤田清吉が原告の代表取締役であった。)、澤田は、澤田清吉の妹であり、同年一一月一日原告に入社し、同五九年二月二〇日原告の取締役に、同六一年一月二一日原告の代表取締役に、各就任している。

(二) 貸付金債権の放棄

原告は、同六〇年三月一四日澤田に対する本件貸付金債権一六二三万九一六一円を放棄し、これを原告の昭和六〇年三月期の確定決算において、雑損失として損金に算入する会計処理をした。

二  争点

1  被告は、前記本件貸付金債権の放棄(以下、「本件放棄」という。)は、法人税法三七条所定の「寄付金」に該当するから、右債権額一六二三万九一六一円のうち、同法施行令七三条により算定される損金算入限度額二一万二二二五円を超える部分は損金に算入されず、したがって原告の前記修正申告所得額六八万七二五〇円に、右の損金算入限度額を超える金一六〇二万六九三六円を加算した合計額一六七一万四一八六円が、係争年度における原告の所得金額である旨の主張する。

2  原告は、本件放棄は、法人税法三七条所定の寄付金には該当せず、全部損金に算入されるべきである旨主張する。

すなわち、昭和五八年二月二五日から同年四月一七日までの間、コーナンの経営主体は、実質的には原告であったが、原告名義ではパチンコ店営業の許可が得られないため、澤田を経営主体とする形式をとることとし、その際、原告と澤田との間で、「〈1〉原告が店舗、設備、運転資金、従業員等一切を無償で用意し、経営指導も行い、営業損失が生じても原告が負担する。〈2〉他方、営業利益が生ずれば家賃の名目で原告に支払う。」旨の約定がなされており、本件放棄は、右の約定に基づき、その義務履行としてなされたものであるから、「無償」又は「対価を伴わないもの」と評価すべきではない旨主張する。

3  したがつて、本件放棄が法人税法三七条所定の寄付金に該当するかどうかが、本件の争点である。

第三当裁判所の判断

一  法人税法三七条所定の寄付金(以下、「寄付金」という。)とは、名義のいかんを問わず、金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与をいうものと解すべき(同条六項)ところ、貸金債権の放棄は直接的な対価を伴わない限り、経済的な利益の無償の供与として寄付金に該当するというべきである。

二  そこで、本件放棄が直接的な対価を伴うものか否かについて検討する。

原告は、本件放棄は、昭和五八年二月二五日コーナンの経営を澤田に委託する際、同人との間で、なされた約定に基づき、その義務の履行としてなされたものであるから、対価を伴わないと評価すべきではない旨主張するが、原告主張にかかる前記約定の内容は、コーナンの営業による利益及び損失の帰属主体を事実上原告とすることを定めたものにすぎず、対価的意義を有する債権債務関係を含むものと解することができず、右の約定に基づくというだけで当然には、その対価性を認めることはできないから、結局、原告の右主張は失当である。

そして本件放棄に至る経緯等及び弁論の全趣旨によれば、原告の澤田に対する本件放棄は、澤田が原告に対し何らかの反対給付をなす等直接的な対価を伴うことは予定されず、かつ、澤田の資力の有無にかかわらずになされたものであることが認められる。

三  従って、本件放棄は、原告の澤田に対する経済的な利益の無償の供与にほかならず、寄付金に該当するというべきであって、原告が放棄した本件貸付金債権額のうち、法人税法三七条二項、六項、同法施行令七三条により算定される損金算入限度額を超える部分は、係争年度における損金には算入されないことになる。

四  以上によれば、被告主張のとおり、原告の係争年度の所得金額を認定することができるから、本件更正処分等は適法である。

五  なお、原告は、昭和五八年二月二五日から同年四月一七日の間におけるコーナンの経営主体について、形式的には澤田であったが実質的には原告であつたから、原告に対する課税は原告が経営主体であった場合と同一の結果とならなければならない旨の主張をするが、コーナンの利益及び損失の帰属主体が事実上誰であれ、前記のとおり、原告らが選択した経営主体ないし法形式に従つた課税手続がなされている以上、自らの選択と異なる主張をすることは許されないというべきである。

(裁判長裁判官 生田瑞穂 裁判官 岸和田羊一 裁判官 青木晋)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例